「火災予防は人命救助最前線!」~川治プリンスを忘れるな~
川治プリンスホテル火災
約40年前、我々は45名の尊い命を救えなかった。
その家族達に深い悲しみを与えてしまった。
複合人災と言われたこの火災
我々消防にも責任があったことを、忘れてはならない。
昭和54年12月川治プリンスホテルに立入査察を実施した。
そして多くの消防法令違反を確認する。
この時、我々は査察結果通知書で危険性を伝え、設備の設置と改修を指示した。
しかし、それは実現されなかった。
この時、「消防法第5条防火対象物の火災予防措置命令」を実施していれば
45名の方々が命を落とさずに済んだはずだった。
火災を未然に防ぐことが出来たはずだった。
なぜ、できなかった。どうして、やらなかった。
我々にしかできない措置命令を...
若人達よ、失われた命のために
戦後最大の死者となったホテル火災を風化させてはならない!
だからこそ、忘れるな!
命を救うために全力を尽くせ!
己が使命に情熱を燃やせ!
そして、火災を未然に防げ!

燃え盛る川治プリンスホテル
火災概要
火災発生日時
・出火推定時刻:昭和55年11月20日15時15分ころ
・消防覚知時刻:昭和55年11月20日15時34分(藤原町消防本部)
・消防出動時刻:昭和55年11月20日15時34分(消防指令時刻)
・火災現場到着時刻:昭和55年11月20日15時36分(藤原町消防団第6分団)昭和55年11月20日15時50分(藤原町消防本部)
・放水開始時刻:昭和55年11月20日15時39分(藤原町消防団第6分団)昭和55年11月20日15時51分(藤原町消防本部)
・火災鎮圧時刻:昭和55年11月20日17時30分
・火災鎮火時刻:昭和55年11月20日18時45分
出火原因
1発火源:アセチレンガスの炎
2経過:鉄柵溶断中の炎が外壁間隙に流入した
3着火物:外壁間隙内可燃物

発火源となったアセチレンガスのボンベ
出火建物及び出火箇所
・名称:川治プリンスホテル
・用途地域:指定なし
・防火地域:指定なし
・構造(旧館及新館それぞれ1階・2階の各中央部が連絡通路によって結ばれた構造で1棟扱い)
1旧館:鉄骨木造亜鉛メッキ鉄板葺一部陸屋根5階建(客室は4階まで)
2新館:木造一部鉄骨亜鉛メッキ鉄板葺一部瓦葺2階建
面積(延面積3582.42平方メートル)
・1階1527.12平方メートル
・2階1282.85平方メートル
・3階371.65平方メートル
・4階371.65平方メートル
・塔屋29.15平方メートル

川治プリンスホテル平面図
損害
1.死傷者:死者45名(男9名、女36名)、負傷者22名
2.建物:全焼3582.42平方メートル
3.損害額:約5億3,375万円(建物4億3,975万円、内容物9,400万円)

全焼した川治プリンスホテル
消防用設備等の設置状況・状態
消防用設備等の状況
消防法上必要とされている消防用設備等
ア.消火器
イ.屋内消火栓設備
ウ.自動火災報知設備
エ.漏電火災警報器
オ.誘導灯、誘導標識
カ.避難器具
消防用設備の設置状況
ア.消火器は、使用方法の誤りまたは点検未実施のため薬剤が放射しないものが2本あった。
イ.屋内消火栓設備について、4階の建物は、昭和43年の増築時に設置したが不備であった。その後、昭和54年の大規模な模様替え時からその都度工事を行い、昭和55年7月にポンプ配管及び電気回路が誤った結線であった。
ウ.自動火災報知設備は、昭和46年に設置し、その後の増改築に伴い工事を行っていた工事事業者の申出によると、当該工事は当日午前中に終了し、設置届出を提出するところであった。
エ.漏電火災警報器は、昭和46年に設置した届出があったが、鎮火後に確認しようとしたところ模様替え時に撤去したようで、発見できなかった。
オ.誘導灯、誘導標識は、小型が付いているため大型に取り換えるよう指示されていた。

焼損した自動火災報知設備

消火液が出なかった消火器

使用できなかった屋内消火栓

屋外に設置されたラセン階段
消防法令の違反
予防査察等の状況
・昭和46年12月1日より昭和55年10月6日の間に8回にわたり予防査察を実施しているが、指導内容は次のとおりである。
1.昭和53年12月1日(屋内消火栓設備等の事及び関係について文書による指示)
2.昭和54年12月10日に査察が実施され、12月15日付の文書による改善指示事項は次のとおりである。
ア.自動火災報知設備を完備すること(未警戒区域)
イ.誘導灯、誘導標識を完備すること(小型を大型にする)
ウ.防火管理者を選任し届出すること
エ.消防設備の点検を資格者が行い、結果を報告すること
オ.消防計画を作成し、届出をすると共に訓練を実施すること
カ.屋上のボイラー室を防火区画すること
キ.建築基準法にあった防火区画をすること
上記のとおり7項目について昭和54年12月31日までに改善計画書を提出すること。
なお、自動火災報知設備については、昭和55年11月20日午前中に工事を完了した模様で、屋内消火栓設備にについては工事完了してあったが、設置届出はなく、実況見分調査の結果、電源回路の結線不良であった。また、改善計画書は、出火当日の昭和55年11月20日までに提出されていなかった。
この時点で違反処理は行われず、警告・命令等の行政指導・処分は実施されていなかったのである。

延焼中の川治プリンスホテル(住民から提供)
社長ら3人とも有罪判決
死者45人、負傷者22人を出し戦後のホテル火災史上最悪となった川治プリンスホテル火災。
この火災事故で、同ホテルの代表取締役と実質上同ホテルの経営にあたっていた代表取締役の妻(専務取締役)の両名が、消防計画の未作成、避難誘導訓練の未実施および防火戸・防火区画の未設置(防火戸管理義務違反)に起因して死傷の結果を発生させたとして業務上過失致死傷責任(防火管理責任)を問われ、起訴されたものである。
裁判の結果、第一審(宇都宮地裁)は、被告人の代表取締役に禁固2年6か月(執行猶予3年)の刑を、また、取締役に対し禁固2年6か月の実刑を言い渡したが、被告人の取締役のみがこれを不服として東京高等裁判所に控訴した。
控訴審(東京高裁)は、控訴棄却の判決を言い渡したため、同被告人は最高裁判所に上告したが、上告審の上告棄却の決定により刑が確定している。
出典:(一財)日本消防設備安全センター違反是正支援センター 消防関係判例集刑事事件関係(平成14年12月初版)
川治プリンスホテル火災の教訓
45名の尊い命を犠牲にしてしまった要因は、防火管理能力の欠如によるものでした。
防火管理とは、火災を発生させないよう万全の注意を払い、万が一発生させてしまった場合は、被害を最小限にとどめることです。
この防火管理は、防火管理者や従業員だけで実施できるものではありません。
管理権原者を筆頭に会社全体で取り組むべき問題であり、行政機関を含む地域全体で取り組む問題であることは、この火災事故が物語っています。
ホテル火災に限らず、観光関連施設における重大事故は、日光市の観光関連産業全体に甚大な被害をもたらします。
我々行政機関が主導し、官民一丸となって観光危機管理を意識し、観光危機管理対策を充実させなければなりません。
「官民連携した観光防災対策を実施し、名実ともに安心・安全な国際観光文化都市を目指すこと。」
これがこの火災による教訓です!
この日光市から、災害による被害者も、そして加害者も出さないことが我々消防の任務であることは言うまでもありません。
文責:予防課水野
この記事に関する問い合わせ先
消防本部予防課予防係
電話番号:0288-21-0368
ファクス番号:0288-30-2986
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更新日:2024年07月22日